What is integration ?

<Scene>
空中に散在する水面は何とも心地よい。空から見やる海とは違うが、よく似ている。
波はない。。。雲もない。。。そして静寂。時折きらきらと光るモノクロームの海たち。。。
それは鉄骨のモニュメントに埋め込まれていた。
突然、大粒のしぶきが視界をつぶす。蝶魚が傍らを通り過ぎたらしい。まあ、蹴りを入れてくる平魚よりはましだろう。
：：：：：：：：：：：：：
今日も彼は死んだ。毎週、何度も死ぬ。そして生き返る。
映画のように何分も息を止めて格闘したり、危機を脱出したりすることは常人にはできない。
それに、幼少の記憶で彼はよく知っている。肉眼では水中はよく見えないし、海水なら目が痛い。
深くなるほど光も差さなくなる。。。
：：：：：：：：：：：：：
得意のクイックターンで折り返し、大胆にも彼は再び水底に向かった。
鮮明に見えるはずの格子模様は消えていた。やがて暗く青い海中が見えてきた。
珊瑚の上をチョウチョウウオ、クマノミ、群れを成したアジが通り過ぎる。いつもの光景だ。
さらに進む。なぜか息は切れない。タンクもBCもフィンもないのだが。。。
：：：：：：：：：：：：：
やがて、眼下に幾何形状が見えてきた。何かの遺跡だろうか？　珊瑚に覆われた巨大な石庭の一郭に船が沈んでいた。いつの時代だろう。。。窓を見つけて中に入る。周囲が見渡せる一室には朽ち果てた大きなテーブルが置いてあった。幸いに人骨は見当たらない。テーブルには何か図形と文字が彫られていた。というよりは紙ではない何か堅固な印刷面である。彼はゆっくりと埃をぬぐい、全体を見渡した。そして、彼は叫んだ。
「・・・・・・！！」
だが、海中では声にならなかった。

</Scene>
（Originally uploaded on Jan.13, 2008）

<Shot>
TBF
</Shot>

<Shot>
GOOOOOOOOOOOOO。。。。。。。。。。。。。。。。。。
また、頭上を1機通り過ぎていった。せっかくの青空が台無しだ。
「ひっどーい！こんなので勉強できるのかしら、ここの学生。」
Reiは少し情けなく思った。だが、大樹の木陰に集う若者たちは何も気にしていない様子だ。どうも女子大との合同サークルか何からしい。まあ、それはそれで懐かしくも微笑ましい光景だ。少し、建物の裏道を歩いてみた。まるで煎餅か干物のように壊れた自転車が積み重ねられている。その傍らには古くて使えなくなった測定器が赤茶けたまま放置してある。確かに、こんな光景もあった。だが、何となく予想した空気ではない。荒廃？いや、決してそんなはずはない。なんだか廃屋かお化け屋敷のようなものもある。やはり自分の母校の方が立派に見えた。もともとそういうことを気にする性質ではないのだが。
メインストリートに戻りしばらく歩く。確かに最新の研究施設もいくつか立ち並んでいる。気を取り直し、工学部を抜けて一般道に出た。傍らを二人乗りのバイクが通り過ぎた。ほどなく自転車、そして早歩きの学生が歩道ですれ違う。
「気のせいだったのかしら。。。」
地下鉄駅前の通りを渡り、ようやく文学部のキャンパスに入った。ここにも予想した空気はない。遊歩道の観葉植物も枯れ果てる寸前に見える。昨日取材した九州工業大学のほうが活気と伝統が感じられた。
「もっと荘厳で雄大なとこかと思ったのに。。。まあ、土曜だからしょうがないか。でもねえ。」
何かが明らかに予想と違っていた。何もないのだ。だが、理工系出身のReiにはわかっていた。最終的な観測結果は観測系そのものの遥動を受ける。これを人間の心理に当てはめるには“小人の誤り（homunculus fallacy）”の指摘から言うと厳密には正しくない。だが、工学的には十分成り立つ。そもそもニュートン力学だって近似だが、相対性理論を使って機械を設計する人など稀有なのだ。
「でも、まあ、問題は人だから。とにかく先生にあってからね。気分の問題もあるし。」
気分の問題もある。確かにそうだ。昨晩の中洲のラーメン屋台。。。。
：：：：：：：：：：：：：：
「はーい、おまちー。」
「え、これだけ？これで千円？」
何か騙されたような気がした。やはり誰もいない屋台は要注意だ。おまけに風情もなにもない。ただ愛想の悪い店員を前に、さっさと食べるだけだ。ここも効率優先の営利主義に毒されてしまったのだろうか。それとも風情とは古きよき時代の迷信だったのか。。。まずくはなかった。だが、適当に食欲を満たしたという感じで暖簾を手ではらい、Reiはそそくさと屋台通りを離れた。橋から眺めるネオン、そして、それを映す夜の川面はさすがに“中洲”だ。それに、こうして離れて見る屋台の行列は、やはり悪くない。少し夜風に吹かれてみるのもいいかな。。。
「おーい、ねーちゃん、ひとり？」
突然、背後から声がした。
「ったく、。。。、渋谷や新宿じゃあるまいし、誰？」　
そう思ってとりあえず振り向くと、とんでもない赤ら顔のでっぷりおやじ。おまけに息くっさーい。典型的な“め・た・ぼ”だ。何も言わずにその場を離れようとすると、いきなり腕を鷲づかみにしてきた。
「そら、ないやろ。そんないけてるルックスやのにー、つれないなー。」
なんだ関西弁かよ。この勘違い出張野郎！
「何するんですか、いーかげんにしてください。」
あわててその場を走り去ろうとしたときに左足のヒールのかかとが折れた。
「もー、最悪！」
Reiはあわててタクシーを拾ってホテルに戻り、キャナルシティで新しいヒールを調達し、事なきを得た。
そして、しばし、色とりどりの噴水と未来感覚のモールを眺めながら気持ちを落ちつけた。。。。
：：：：：：：：：：：：：：

そんな昨晩が一瞬思い出された。ようやく辿り着いた。ほどなく白髪の老紳士が現れた。
「Sudouです、はじめまして。すみませんね。せっかくの取材にこんなとこまでおいでいただいて。」
「いえ、そんな。私のような若輩に時間を割いていただいてありがとうございます。」
「うちの大学はいくつものキャンパスがあって、新しいとこもあるんですけど。。。私はどうしてもここにこだわりがありまして。」
「ああ、それでー。あ、よくわかります。私の出身研究室の先生も本郷が好きで。千葉の新キャンパスに行けばとてもきれいで広い研究室がもらえるのに、どーしてもこだわって。」
「うちの大学も今、伊都キャンパスといいまして、ここから西に、ちょうど博多湾の反対側に位置する学研都市に建設中ですよ。」
「それは楽しみですねー。さて、では今日の本題ですけど。。。」
「ええ、準備してますよ。こちらへどうぞ。」
そういってSudoは薄暗い廊下を渡ってつきあたりの資料室に案内した。



</Shot>

(Originally uploaded on August 3, 2008)

<Shot>
どーん。Rightはいきなり上司の机をひっくりかえした。そして彼はすごい剣幕で上司の胸倉をつかみ、叫んだ。
「どうしてそんな卑劣な真似しやがるんだ。お前なんかに人を従える資格はない！」
Rightは会社を去った。
：：：：：：：：：：：：：：：
目が覚めた。こたつの中でうたたねをしていたのである。外は、まだ雪が降り続いていた。
「よかった。。。」
窓を眺めながら彼はつぶやいた。何度同じ夢を見たことだろう。それはかつて心に抱いた“夢”とは明らかに違っていた。いったいいつからこんな風になってしまったのか。
「雪か。。。どれだけ降っても都会の雪だ。かわいいもんだな。。。」
コタツの上のかごに入ったみかんをひとつつまみ、Rightはダム建設のころを思い出していた。彼は現場で陣頭指揮を取り、上から下まであらゆる仕事をみずからこなした。彼なくしてはその仕事は達成し得なかったといっても過言ではない。だが、組織は、いや、世界は別の駆動原理で動いていた。。。そのことは彼一人ではどうにもならなかったのだ。やがて、彼は人前では笑わなくなった。笑えなくなったのだ。
「いったい誰なんだ、お前たちは。。。？　何を生きがいにしているんだ？」
：：：：：：：：：：：：：：：：
ほどなく、彼は退社して、東京の私立大学に客員講師として勤めることになった。やはり、夢の中での荒行を現実にしなかったとしても周囲との確執は耐えがたかったのである。そして、彼らはあまりにも卑劣すぎた。だが、どうしようもなかった。このようにして人は階段を上っていくのかと思うと鬼畜以外の何者でもないようにも思えた。
半年が過ぎた。天気もよくなり、少し汗ばむ頃であった。渋谷や新宿に比べれば、ここは少しあかぬけない街であったが、Rightはそれがとても気に入っていた。頭上にせり出した街路樹の下を行き交う学生たちも私大とはいえ、幾分地味に見える。講義は週２回、それ以外は研究室と図書館で夜遅くまで過ごした。そんな毎日はとても貴重で充実していた。疑いようもなく、きらきらした時が流れた。
大学が夏休みに入ると同時に、Rightは研修で博多に1ヶ月ほど住まうことになった。


</Shot>

(Originally uploaded on April 26, 2009)

<Shot>
曇り空の果てには朝焼けの名残が残っている。
「1ヶ月のことなのに、随分とレコードを持ってきたものですね」
Sudouが目を細めて覗き込んだ。
「いやー、私にとっては片時も離せない宝物のようなものです。」
Rightはレコードを拭きながら、続けた。
「私は大学時代は少し学生運動にかかわってました。団塊の名残のような世代ですから。でも、私の3年ほどあとの人間はまったくそれを払拭してしまった。いや、世代さえもなくしたようです。昨年の夏、ある機会があって、アメリカにただでいかせてやるというのである団体の啓蒙プログラムに参加しました。Relligionの中でも世界的勢力を持つ団体が主催するツアーです。そこで、出会った学生たちと話していてつくづくそう思いました。今はｘｘ主義とかイデオロギーにこだわる若者はほとんどいない。世の中、そんなにひまじゃなくなったんです。だから、みんな啓蒙プログラムに参加しても、入信するつもりはさらさらない。ノンポリなんですね。」
：：：：：：：：：：
「いつか渋谷で出会った女の子がこういってたんですよ。『もうセックスなんて数多い楽しいことのひとつに過ぎない。日本も変わったんじゃないかなー。』って。遊んでいる割に妙にインテリ風な娘でした。」
「昭和ひとけた世代の‘飲む打つ買う’が今ではすっかりナンセンスな神話になっているのと同じですね。」
「その娘とは一度しか会わなかったのだけど、ある日、井の頭線の駒場前でおりていく姿をみたとき、まさかっておもいましたよ。わりかしかわいい子だったから。」
：：：：：：：：：：
「まあ、文学部なんていうのは少なからずそんな人生送ってる人がほとんどでしょう。大学でまじめに講義している人間のほうが肩身が狭いくらいで。」
確かに1980年代以前の大学はまだそんな風だった。バブル崩壊後に急増した就職予備軍のような輩は、まだ一般的な学生像ではなかったのだ。
：：：：：：：：：：：：：：
「Profitとrelligionはどこかでつながってるかもしれません。いや、単なる私の個人的見解ですが。というよりは、長い歴史の中で互いにかかわらざるを得なかったでしょう。」
：：：：：：：：：：：：：
「会社に勤めていたときにはいろいろあったようだね。」
「ええ、たしかに。ある事件を境に、落ち込む毎日が続きました。アパートに帰っても眠れなくて。。うとうとしていたんです。目が覚めるたびに短針が一つずつ進んでいるなんていう。。。ある晩、暗い気持ちでいると、彼女が耳元でこう囁くのです。『あるがままになさい』と。もちろん夢の中の彼女です。顔はよくわかりません。」
「はっはっは。神の啓示ですか。ま、歴史的にはよくある話ですが。反社会行為に出るトリガーになると厄介で、やや病理的にもなりますが。」
「いや、そんなんじゃありません。私は過激派でもないし宗教家でもありません。ただ、自分の疑問を解きたいと思い続けているだけです。いわば自然の法則を見つけようとする科学者のようなもので。」
「人の社会にも法則はありますからね。歴史にも。。。」
「あるとき、夢の中で私はでっかい声で呼ばれたんですよ。自分の名前を。これっておかしいですか？」
Sudouは部屋の片隅にある白いアルバムを見て答えた。
「ふーん、まあ、あるかもしれないな。」
「え？」
「ま、気にしないことです。それより。。。」
窓から見える空を見上げた。
「私もそろそろ教授稼業をやめようかと思ってね。」
Sudouがぽつりといった。
「え、まだ、お若いではないですか。」
「はっはっは。あなたと同じ。違う人生を体験したくなったのですよ。ま、いずれまた。」
Sudouは再び眼鏡の奥の目を細め、自室に帰っていった。街はもう活動を開始していた。

</Shot>

(Originally uploaded on April 26, 2009)

<Shot>
「そうか、LKTがついに死んだか。」
「政府筋では大方の予測はついていたそうです。」
「予測？操作したんだろ？」
「いや、そこまでは。」
「噂では、助手席の女はその後、LKTと別れる、というより、人知れず姿をくらます予定だったとか。その女はRelligionのメンバーだそうです。」
「Rか。やつらは怖いな。ミッションに人の一生をかけてくる。」
「いや、その点はPも同じ。」
「表向けのニュースによると、LKTの財産はすべて慈善事業に寄付されたそうです。」
「だが、その慈善事業はRがしきってんだろ？」
「ご推察のとおりです。ところで、LKTって例の長期ITプロジェクトの被験者の息子だってことごぞんじでしたか？」
「被験者？ああ、あの実験体か。やつは極刑になる人間だった。そうかあいつか。」
「しかも、今回のオレンジの髪の女はもともとやつの愛人でした。」
「愛人？　というより、それもRのミッションだろ？」
「まあ、そういうことです。Rは今回のミッションでかなりの損失を回収し、組織の存亡にかかわる危機を回避したというわけです。」
「つまりT親子は二代にわたって、Rに寄進したわけだ。自分の身を捧げてな。だって、プロジェクトから実験体供与の報酬をもらったんだろ。」
「何から何までお見通しで。」
「で、プロジェクトはうまくいってんの？」
「ええ、かなり学習できたようですよ。生身の人間を使ったインタフェース実験なんて、普通、そう長くできませんからね。しかも10年以上にわたってなど。」
「ところでもうひとつ聞くがな。LKTのAIエージェントが例のニュースを本人につたえたのはどういうわけだ？」
「と、いいますと？」
「だって、そうだろう。今やAIエージェントは例のプロジェクトの成果を反映して、人の情動を予測できるはずじゃないか。だったら、本当に忠実なAIAならば危険回避のために高速運転中に精神的動揺を与えるようなニュースは避けるはずだろう？」
「ええ、実は我々もそこは疑問に思ってまして。。。」
「ひょっとしたら、そのAIAは誰かに操られてたんじゃないの？」
「いや、その可能性もあります。PとかHM社とかいろいろな説があります。」
「そーかなー？　もしかしたら、Rなんじゃない？Rにとっては役目を終えた女をフリーにするのは危険でしょ？でもRが直接手を下すとしてもなあ。今のIT警察そんなにバカじゃないし。。。」
「“誰か”じゃなくて“何か”かもしれませんね。衛星とWebですべてが接続可能ですから。」
「てことは、たとえば別のAIAか。それともPに近い集合意識体か？　そりゃ、サイバー事故だな。いや、歴史的突然変異かも。うーん。例のプロジェクト、もう一度洗いなおしたほうがいいな。最近チェックいれてないだろ。」
「わかりました。では、早急に。。。」


</Shot>

(Originally uploaded on Oct. 6, 2012)

ホームページ開設サービスです。

@niftyのトップページです。